変化したスキー場を見て、
その再興を決意。
御嶽山の南東にある「御嶽スキー場」は、1961年に開設されました。標高2240mを誇り、その高さは全国で3番目。質の良いパウダースノーと、広いコース幅が自慢のスキー場です。2021年から支配人を務めるのは、王滝村出身の家高里加子さん。小さい頃はこのスキー場によく遊びに来ていたといいます。
「祖父が王滝村の村長だった頃に、村が開設したスキー場です。父も長野県のスキー理事で、御岳スキー学校の校長をしていたので、私にとっては馴染みのある場所でした。当時はスキー場に来ると、駐車場がいっぱいで車がなかなか停められなかったし、リフトに乗るのに多くの人が並んで待っていたことを覚えています」
村外にある高校に進学した家高さんは、その後の大学進学、就職してからも故郷とは離れた場所で生活していました。しかし、父の死をきっかけに王滝村にUターン。実家は旅館を営んでおり、その手伝いをするために帰郷しました。
「若いときは絶対に地元には戻らないなんて思っていたけれど、大人になってから戻ってみると、田舎での生活はそんなに大変ではありませんでした。車の運転も好きだし、楽しんで生活しています」
王滝村での生活をはじめると、スキー場で働かないかと声がかかります。何年かぶりに行ったスキー場は、記憶とは様変わりしていたそうです。
「閑散とした風景を見てショックを受けました。かつてあんなに賑わっていた場所が、今はガラガラ。ここをなんとかしたいと思いました」
さまざまな施策を考えながら、再興のためにアイデアを実行していきました。
「勤務してはじめの年は、レストランメニューのリニューアルに着手。いろんなカフェをリサーチして写真を撮りたくなるようなパフェを考案しました。2年目、3年目と働いていくうちに、営業にも行きたいし、自分ができる範囲をもっと広げていきたいと思い支配人に立候補しました。社長は快く受け入れてくれたんです」
念願の支配人になり、イベントの企画や商品開発、SNSでの宣伝にも力を入れています。
「木曽のお土産になるようなグッズをつくりたくて、オリジナルクラフトビールの開発や、ヒノキの香りのスキー用ワックスをつくりました。またスキー関連だけではなく、いろんな企業とコラボさせていただくことが増えました。今回はバイクのスーツをつくっているクシタニという老舗メーカーと一緒に、ゲレンデにオフロードコースをつくっています。スキー場スタッフのウェアもデザインしてもらいました」
夏のキャンプや冬のスキー大会などゲレンデを活用することはもちろん、さまざまなアイデアを形にしている家高さん。家業の旅館は2022年に閉館し、現在は支配人としてスキー場の活性化に注力しています。
地域の方々との交流を大切に。
「今まで村の中心地とスキー場は物理的にも距離が遠く、なんとなく住民との間に心理的な距離があったような気がします。スキー場は、王滝村のなかの施設として、村全体の活性化の役に立ちたいと思っています」。
家高さんは村の夏祭りに出店するなど、積極的に村の人との交流も図っています。またスキー場に来たお客さんにも、王滝村の魅力を知ってもらうための施策も考えました。
「スキー場内にある温浴施設『ざぶん』では、王滝村の製薬会社、長野県製薬の入浴剤『湯貴』を使用しています。生薬を配合した疲労回復に最適な入浴剤で、スキーの疲れを癒やすのにピッタリです」
地域の方と、スキー場のお客様が一緒になってできるイベントを開催したいと考え、去年からは、王滝村のごみ拾いイベントも主催しています。
「初年度は20名くらいの人が参加してくれました。2年目はSNSでも告知をして、なんと参加者は50名ちかくも。スキー場のお客さんも地域の方々も参加していただきて、なかなか交流を持てることも少ないので、良い機会になりました」
スキー場に出かけてくれる県外のお客さんから、移住の相談を受けることもあるという家高さん。ウィンタースポーツが好きな方には、王滝村移住はピッタリなのではないかといいます。
「お客さんで、定年退職したら王滝村に住んで冬は毎日スキーをしたいなんて言ってくれる人もいます。王滝村の立地や冬の道の悪さ、不便さを知った上でもそのように思ってくれることは、とてもありがたいことです。王滝村で生活する人が増えてくれたら、私も嬉しいのでぜひ住んでくださいと話しています」
さまざまな取り組みで、お客さんも、村民の方にも楽しんでもらいたいと語る家高さん。やりたいことが実現できる環境に、とても満足していると語ってくれました。
「王滝村に遊ぶ場所が少ないことは事実です。でも、あまり不自由は感じていません。仲間たちと家で飲むのも楽しいし、イベントを企画するなど娯楽は自分でつくり出せる。今は予想もしていなかったことが次々と起こる刺激的な毎日を、とても楽しんでいます」