幼い娘2人と共に、
新天地への引っ越し。
王滝村民の憩いの場となっている常八(つねはち)。古民家を改修し、農家民宿兼大衆酒Barとして2020年に開業しました。新型コロナウイルス流行の影響で、今は予約営業をしていますが、居酒屋が少ない王滝村では重宝されています。ここでお客さんを迎えているのが杉野さん。もともとは、愛知県で水質分析の仕事や生化学実験補助の仕事などをしていました。その間に娘2人を出産。その後、愛知県から離れ転職することを考え始めたそうです。
「地元である岐阜県中津川市の近くに帰りたいという思いがあり、周辺で仕事を探していました。そのとき南木曽町の地域おこし協力隊を知ったんです。面白そうな仕事だと思ってすぐに応募しました」
2015年、当時保育園児だった子ども2人を連れて南木曽町に移住。コミュニティスペースの運営や、マルシェの企画などを担当し、4年間の日々を過ごします。
「子どもを連れての移住は大変なことももちろんたくさんありましたが、むしろプラスだったように感じます。田舎では子どもは宝。子ども一人の存在が村にとって大切なので、子どもが増えたとみなさん喜んでくださいました。また、子どもを通したつながりもできるので土地にも馴染みやすかったです」
2018年には、合同会社Rextという会社が王滝で立ち上がります。キャンプ場の運営などを手掛ける会社で、海外ボランティアツアーを始めるということで杉野さんに声がかかりました。海外からボランティアの方が王滝村を訪問。村の手伝いをしながら文化や暮らしに親しむというツアーです。
「この会社は、ボランティアツアーはもちろん地域課題を解決するという活動に力を入れていてぜひ一緒に働きたいと思い王滝村にやってきたんです。英語が得意というわけではなかったのですが、ボランティアの人たちの案内や滞在中のお世話など体当たりで楽しくやっていました」
ないものはつくる!
山での暮らしは工夫の連続。
御嶽山の麓、王滝村は山深い木曽地方のなかでも特に奥地。欲しいものがすぐに手に入る環境ではありません。
「買い物が遠いなど、不便な環境に心配はありましたがしばらくしたら慣れました。今はインターネットで注文すればなんでも手に入るので、困ることは少なくなってきたと思いますし、ないと思ったら工夫するようになりました。ケーキが食べたいと思ったら、ここにはすぐに行けるカフェもないから自分で焼いてみたり。今は畑を始めたり、鶏を育てたり食べ物も自分達でつくれるようにしています」
畑で採れた野菜や、鶏が産んだ卵は常八でも使っています。このクリエイティブな姿勢が田舎暮らしを楽しむコツなのかもしれません。
「今は会社で経理も担当していますが、入社するまでやったこともありませんでした。商工会やたくさんの先輩たちに教えてもらいながらなんとかやっています。田舎に住むということは、都市部では身につかないスキルが身に付きます。草刈りや、雪かき、地域の人とのコミュニケーション。いろんなスキルを求められますが、それに応えていくことで、いろんなことができるようになっていく。それが楽しいです」
研究職だった時代からは想像できないほど、幅広く仕事をしています。コロナ禍で休止していた海外のボランティアツアーも今夏頃から再開予定。そして現在、新たに取り組んでいるプロジェクトがあります。
「シェアハウスをつくる計画をしています。アーティストや学生など、王滝と関わりを持とうとしてくれている人たちの拠点になるような場所。自分達で料理や身の周りのことをしながら中長期的に滞在できる場所を作る予定です。人口の減少が課題になっている王滝村で、移住者や関係人口を増やすことに貢献できるような拠点にしたいと思っています」
エネルギッシュに活動を続け、村に次々と新しい風を吹かせている杉野さん。現在は集落支援員として移住の担当もしています。実際の移住者で、子育て中のシングルマザーである杉野さんだからこそ、様々な不安を抱える方の答えを持っているのかもしれません。ぜひ気軽に声をかけてみてはいかがでしょうか。
Text: 宮原 沙紀