長野県王滝村と包括連携協定を結ぶ長野県立大学の学生・小関一矢さんが村人と出会い、その日々を体験する「突撃!はーどもーどらいふ」。第二弾は、小関さん自身が有害鳥獣パトロールの日の出来事を綴ったレポートをお届け。
こんにちは!
長野県立大学グローバルマネジメント学部3年の小関一矢です。今回は村で行われている有害鳥獣パトロールに同行させていただいた一日をレポートします。それではどうぞ!
いざ、軽トラで王滝の山の中へ…!
8/11の正午過ぎ、三度の飯も昼寝も好きなのんびり大学生・小関の日常史上、最も過酷になるであろう取材が始まろうとしていました。
それは、、、「有害鳥獣パトロール!!」
ゆゆ、有害鳥獣!?
所属する学部からグローバルマネジメント学部、日ごろからカタカナ横文字ばっかり眺めている自分には、強すぎる字面、、、
そもそも、「有害鳥獣パトロール」って一体どんなものなのでしょうか、でっかい熊や猪と猟銃片手に戦うのでしょうか、、、
覚悟を決めてストレッチして準備万端、狩るか狩られるかの精神で待ち合わせ場所に集合します。
集合場所の王滝村役場で待っていてくださったのが、集落支援員で有害鳥獣対策課の山下朝生さん。今回は山下さんの日課である朝のパトロールに同行させていただきます。
ところで、有害鳥獣パトロールっていったいなにをするんですか?
人里で農作物などを荒らす獣や鳥の対策として、村内各地に仕掛けた罠に動物が捕まっているか見回ります。同時に、集落内にサル等を確認いた際の追い払いや被害状況と野生動物の動きを確認する。それが、『有害鳥獣パトロール」です。今回は猿用の罠を5個と、猪用の罠一個を確認しながら、村内の様子を見てまわります。
とりあえず、山に突撃ってことはなさそう、、ひと安心です。
山下さんが運転する軽トラックに同乗させていただき、有害鳥獣パトロール、スタートです!!
スタートするや否や、猛暑の中、軽トラックの窓を開け始めた山下さん。
ね、熱風が吹き込んできますね! どうして窓を開けるんですか?
一見何気ない景色でも、しっかり窓を開けて観察すると、鳴き声や獣たちが残した痕跡が見えてくるんです。これが、罠を設置する場所選びや、動物の動向を把握するヒントになります。パトロールは、車に乗っているときから始まっているんですよ
「ほら、あそこの畑はイノシシが掘り返した跡があるでしょう」「ここは、サルの食べ残しが落ちてる」と、山下さんは山道を運転しながら幾つも獣が通った痕跡を発見し教えてくれます。凄すぎる!
自分も外に目を凝らしますが、なかなか見分けがつきません。
そんな感じで窓の外を凝視しているうちに、一つ目の罠に到着しました!
「まさか早速、有害鳥獣と対面・・・?」
恐る恐る近づきました。
が、結果はこのとおり。何も捕まっていませんでした。残念なような、少し、ホッとしたような…
猿は賢いので罠のトウモロコシだけ取られて、逃げられてしまうことが多々あるんです
そんなお話とともに、罠の近くにある獣の痕跡も教えてくれました。
例えばこの斜面。人間が歩く道の上下に、土や草が掘り返された跡が残っていますよね。このようなことろは通路になっている可能性が高いから、罠を設置する場所のヒントにしています
確かに、よく見ると、やけに荒れているところがある気がする。山下さんの獣道を発見する目はやっぱりすごい!
動物発見!
このあとも、山下さんに追いつこうと、獣道を探しては、設置した罠を巡っていきます。
やっと獣道らしきものがわかってきたころ、4つ目の猿用の罠を訪れると、
「キイッ! キイッ!」
鳴き声とともに、何かが檻のなかで動いていました。
駆け寄ってみると、、、、子猿でした!
威嚇しながら、小さい檻の中をぐるぐるしています。
今まで見た中で一番小さい檻に入る小猿。不安そうに動き回る、その姿、その声。
先程までは、捕まえたい! 人里の被害を減らしたい!と言う思いでしたが、その姿を見るとなんとも言えない気持ちになりました。
どうしたら、動物と人間にとって理想の距離感が作れるだろう、、、
なんて途方もないことを考えながら、パトロールを続けました。
結局、この日罠に獣がかかっていたのは、この1つのみ。それでも周囲に見つかったたくさんの痕跡を手がかりに山下さんは日々罠の調整を行い、毎日のパトロールを続けていくのです。
インタビュー編 −動物と人間の、理想の関係を探して
モヤモヤを抱えながら、村の交流拠点の「常八」にて、山下さんのインタビューをさせていただきました。
「どうしたら人間と動物のいい関係ができるでしょう。結構、あのサルの姿が印象に残ってしまっていて…」
ライター見習いの小関は、順序を考えず早速先ほどの問いを投げかけてしまいました。
すると山下さんは、ていねいに言葉を選びながら、こう答えてくださいました。
「理想の関係性をつくるためにまず大切なのは、人間がきちんと動物にサインを出す、線引きをする。と言うことだと思います。
昔はハンターが何人もいたし、そもそも木を切りに行ったり、焚きつけの枝を拾いに行ったりと、日常的に人が山に入って、手入れをする場所があり、そこから深い奥山がグラデーションのように広がっていました。。
けれど今は、人里の裏はすぐにだれも入らない森、となっていて、自然と人里の緩衝材となりうる場所が少ない。自然と人里との境界線が曖昧になってきてしまっているのが現状なんです。
そもそも、動物は悪さをしたくて生きているわけじゃなく、ただ自分たちが生きるために行動をしているだけ。人里に入ってこなければ、“有害“鳥獣にはならないですからね」
そうか、両者の線引きが行われずに人里に出てきてしまうから、あの小猿も有害鳥獣と認識されてしまうのか、、、
では、住む人が動物の被害を減らすためにできることってなんでしょうか
まずは動物について正しい知識をつけてもらう、関心を持ってもらうと言うことだと思います。小関くんはなんでサルの個体数が増えちゃうと思いますか?
えーっと、個体数が増えるってことは、猿が子どもを産むから!ですか?
人里の食べ物を利用できる環境にあるから栄養状態が良くなり、エサの少ない冬の間も生き延びて、初産年齢の若齢化や高齢出産、自然の状態なら2~3年おきの出産が毎年になってしまったりしてどんどん増えてしまう。
これらを防ぐには誰も収穫していない果樹を処分したり、電気柵などを活用して未収穫作物や農業残渣をサルが利用できないように農地を適切に管理し里内のエサ資源を減らす、そして集落ぐるみの積極的な追払い等で、サルに『ここは安全なエサばでは無い』と学習させることが必要だと考えています。
結局、罠での捕獲は対処的な方法でしかありません。1頭捕獲しても群れはまたやってきます。村民の皆さんが自分事としてこれ等に意識を向ける事が最も重要な事だと思います
都会から地方へ移住するということ
今ではこのとおりベテランパトロールマスターの山下さんですが、実は5年前に東京から王滝村へ移住して来られたそうです。最後に、移住に関してもお話を伺いました。
東京から王滝へ、だいぶ環境が変わりましたよね、大変ではありませんでしたか?
いや、結構いけるもんですよ、王滝村の『自分のことは自分でやる』、っていうスタイルが面白くて(笑)。
ここは、なにか困った時に業者を呼ぶ選択肢も狭く、お金もかかる。なので自然と自分で挑戦し出すようになるんです。畑やったり、木を切ったり、家を直したりね
今は、なんと6.3メートル×30メートルもの巨大ハウスを自作し、トマト栽培したり、チェーンソーを使って木を切る資格をとって、支障木を切ったりもしているそうです。
最後に移住する人へアドバイス的なものがあればお願いします!
街から来た人は街の常識で生きてきたように、地域には地域の常識があります。大切なのはこれから住む地域の常識を理解する姿勢だと思います。
私は、その土地に根ざした生活のための知識や常識を学問としてとらえて、移住者はその学問を教授である地域の皆さんに教わりに行くつもりで地域に入っていけば大丈夫だと思っています。
王滝村でしたら”王滝学”を教授である村民の皆さんについて学ぶといったところですかね。
また、王滝には、『教えてください!』と言って嫌な顔をする人はいませんから(笑)。
そうして謙虚に様々なことを教わっていると、困った時にその教授たちが助けてくれますよ
編集後記
今回の取材では、獣の痕跡や捕獲された子ザルを見ながら、居住地域と獣の生息地の境目を行ったりきたりさせていただきました。その中で、普段忘れていた同じ地球を生きている動物たちの存在を再確認しました。
ちなみに王滝村は97%が山林原野だそうです。つまり、僕が王滝村で見た景色は、土地で考えたらたった3%未満。日本全土で見ても居住可能地域って30%程しかないようです。つまり残りの70%は他の動物や自然たちがうごめく別世界と言うことです。
僕は勝手に、土地とか、地球って、人間の持ち物のような感覚になっていたことに気づきました。でも実はいろんな動物の一種として人間がいるだけで、人間以外の動物達だけが知る土地や文化もたくさんあるんだろうなぁと思いました。でもここから猪や猿などの動物に文明を与えて、地球をどうしていくか会議をするのはまだ遠い先の未来になりそう。なので文明が偶然先に栄えた人間の方から、地球の使い方について提案ができたらいいなと思います。
そしてその提案になれるものが、人間の作った檻や柵になると、山下さんから教わりました。ここからは人間が住んでいるから、入らないで欲しい、という提案をすることで、お互い無意味に傷つけあうことが限りなく少ない世の中にしたいと思いました。