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インバウンドと”王滝暮らし” 〜ようこそ!「グローバル女子会」へ

この日集まった「グローバル女子」メンバー

写真右から)
古川さゆりさん(地域おこし協力隊)
杉野明日香さん(Rext滝越・王滝村集落支援員)
胡桃澤尚乃さん(普寛堂くるみ沢旅館)
山下香織さん(王滝村観光協会・木曽terasu農園)
宮原華菜子さん(長野県立大学)

「なぜか最近、村で外国人の姿をよく見る気がする」

ーーそんな噂?がささやかれるようになった、王滝村。

そう、それはまぎれもない事実であり、村には近年ボランティアツアーや一人旅など、さまざまな理由で外国人が訪れるようになりました。

しかも、1ヶ月程度の長期滞在者も少なくないのが特徴。彼らはなにを目的に村にやってきて、どんなことを楽しんでいるのでしょう。そして村の人々はどんな風に、彼らを迎え入れているのでしょう。

そこで今回は、王滝村の新たな一面「インバウンド需要」について探りながら、移住先としての王滝村の魅力にも迫ろうと、「女子会」を開催。Rext滝越・杉野明日香さんを司会者に、みなさんのリアルな声を聞きました。

語学はできなくても、「心と心」で通じ合って

急峻な山々に挟まれた、木曽谷の奥の奥。電車の駅もなく、自家用車かバスでのみ辿り着ける秘境、それが王滝村。

けれど近年、ここをめざして訪れる外国人旅行者が、少しずつ増え初めているーーその実体験を語っていただく「女子会」は、創業150年を超える村のお宿「くるみ沢旅館」にて行われました。

やわらかな光の差し込む畳敷きの広間を開放し、迎えてくださったのは、女将の胡桃澤尚乃さん。「ついでにつくっておいたのよ」と、さりげなく出してくださった「すんき※入りのおにぎり」をお茶受けとお茶をいただきながら、Rext滝越・杉野明日香さんの声掛けで会はスタートしました。

※すんき・・・赤カブの葉と茎を塩を使わずに漬け込んでできる、木曽地域伝統の発酵食品

くるみ沢旅館女将・尚乃さんお手製のすんきの混ぜごはんおにぎり。とびきりのおいしさに、早くも「おもてなし」の心を感じて

杉野明日香(以下、明日香) 今日は、最近の村で増えている外国人観光客のみなさんと接点をもつみなさんに集まっていただきました。「どんな世代が来ている」「どんなふうに過ごしている」など、体験談をお聞きしながら、王滝の魅力や、王滝らしいおもてなしとは?についても考えていけたらと思っています。

その前に少し、村にインバウンドが増え始めたきっかけの一つからお話しますね。

2020年に、私が所属するRext滝越がひょんなことから「グリーンライオン」というタイに本部をもつボランティアツアー会社の日本拠点になりました。

この法人のスタッフとの偶然の出会いをきっかけに、日本唯一のツアー受け入れ先となったのですが、ボランティアツアー客の活躍の場として、くるみ沢旅館さんにもつながっていただきましたね。

胡桃澤尚乃(以下、尚乃) はい。うちは御嶽山信仰の宿坊として始まった宿なので、御嶽信仰の象徴的な存在でもある「霊神碑」について、イギリス人とカナダ人のツアーの方に英訳をしてもらい、他にも、宿に来ている外国人旅行客の通訳をしていただいたりして、とてもいい時間になりました。

今年は、海外からカップルやファミリーなどのご予約も多くなってきました。それでボランティアツアー参加者とうちにご宿泊の海外からのお客様とも交流させてもらってます。英語はぜんぜん話せないのですが、気持ちと翻訳アプリでコミュニケーションをして(笑)、思いがけない喜びの反応をいただけるのがうれしく海外の方のとコミュニケーションが楽しくなってきました。

胡桃澤尚乃(くるみざわ・ひさの)さん
沖縄県生まれ。結婚を機に王滝村に暮らすようになる。明治2年創業の宿「普寛堂くるみ沢旅館」の女将として旅人をもてなしながら、御嶽山開闢普寛行者の事や王滝村の食文化などを伝えている。

明日香 (古川)さゆりさんと(宮原)華菜子さんは、Rext滝越が運営するシェアハウス兼ゲストハウスの「常八」に長期滞在する旅行者と関わってもらって。英語を話せる二人には本当に助けられているし、旅人のみなさんともめっちゃ仲良くなっているよね。

古川さゆり(以下、さゆり) すね。私は地域おこし協力隊としていま、村に暮らしているのですが、その受け入れ企業になってくれたのがRext滝越です。ボランティアツアーで来たゲストのアテンドもしているし、ツアーではなく個人旅行として宿に泊まりに来た外国人ゲストとも関わっています。

最近だと、フランス人のカップルが、1ヶ月泊まっていましたよね?

明日香 そうそう、クリスマスパーティをみんなでしたよね。

古川さゆり(ふるかわ・さゆり)さん
茨城県生まれ。友人の誘いのきっかけに王滝村を訪れ、令和5年に王滝村の地域おこし協力隊に。地域での受け入れ元(支援企業)であるRext滝越のメンバーとして、旅行客のアテンドを行うほか、新たなサービスとしての「よもぎ蒸し」の研究なども行っている。

明日香 華菜ちゃんも、まだ学生さんだけれど、すっかりうち(常八)の住人として活躍してもらって。

宮原華菜子(以下、華菜子) 私は、長野県立大学の4年生になりますが、去年の4月から休学をして、常八に居候をさせてもらっています。1年だけのつもりだったけれど、復学して王滝村のことを卒論のテーマにしようと思ったので、このまま王滝に一旦、残るつもりです。

なので、日常は旅行者のみなさんとも一緒に、暮らすような感覚で、朝から晩まで友達みたいに過ごしていますね。仕事というよりも、ただ遊んでいるみたいで(笑)。

欧米には「ギャップイヤー」といって、高校や大学を卒業後、次の進路に進む前に猶予期間をとってボランティアをしたり、インターンシップに行ったりする制度があるようで。同世代の旅行者がそういう期間としてこの村に来たりすると、お互いに悩みとか将来のこととかを話せたりもします。

宮原華菜子(みやはら・はなこ)さん
埼玉県生まれ。長野県立大学グローバルマネジメント学部在学。2024年は1年休学し合同会社Rext滝越が営む農家民宿「常八」に滞在。2025年には卒業論文のテーマを王滝村とし、フィールドワークのため引き続き常八で暮らすことに。

明日香 常八への滞在中に仲良くなって、帰国後も引き続き連絡を取り合っているお客さんも結構多いんですよね。

華菜子 ですね。昨年10月にイギリスからやってきたツアーの方などは、いまだに週一回オンラインでつながって、英会話教室をやってくれています。

山下香織(以下、香織) あ! その方、滞在中にも英会話教室やってくれたよね。私も参加したけれど、かつて通っていた英会話教室ぐらい上手だったなあー。

明日香 香織さんは、地域おこし協力隊を卒隊して新規就農するかたわら、村の観光案内所でアルバイトをしているんですよね。最近、案内所に来る外国人の数が増えたと感じているとか。

香織 そうなんです。私は農業のかたわら、週2回だけ村の観光案内所でアルバイトをしているんですが、ここ数年とくに、(外国人の方が)増えたなって感じますね。

山下香織(やました・かおり)さん
東京都出身。地域おこし協力隊として王滝村に移住し、その後村内で「王滝terasu農園」として新規就農。現在はミニトマトほかを栽培しながら、村の観光案内所で働いたり、地域でバレエストレッチのワークショップを開催したりと自身の「できること」を生かして活躍中。

明日香 そういうとき、会話は英語でしているんですか?

香織 いえいえ、私もぜんぜん喋れないので、AIチャットも使いますが、あとはハートトゥハートのカタコト英語です(笑)。

明日香 尚乃さんも話されていましたが、話せなくてもなんとかなるっていうのは、私も感じます。うち(Rext滝越)の代表なんて、まさにカタコトの典型。でも、不思議とコミュニケーションがとれるんですよね。

さゆり 私は、アメリカに留学はしていたけれど、帰国後はほとんど英語を使っていなくて。それが王滝村に来てから、英語を話す機会がすごく増えたので、実践練習になっていると思います。ここでは、お客さまが来るからとにかくやるしかないし、恥ずかしがっている場合じゃないから(笑)。

尚乃 できないなりに一生懸命話していると、ちゃんと耳を傾けてくれるし、伝わりますよね。むしろ、それも日本での旅の経験として楽しんでくれているのかもね。王滝村はそういうあたたかいお客様に恵まれているよね!!何よりこんな山奥まで足をのばしてきてくれた方に喜んでもらいたいので、今では旅館前を通る外国人にも「Hello〜」って声をかけられるようになってきました。

「なにもない」ことが求められている

香織 それにしても、長野県のなかでも奥地である王滝に、なんでこんなに外国人の旅行者が来るのか、知っていますか? 気になって私、拙い英語で聞いてみたんです。

明日香 それはかなり気になる。

香織 でしょ、そうしたら、「東京とか京都は人が多すぎて、疲れちゃって」っていうんです。それで、「『人がいない、水が綺麗な自然』みたいなワードで検索してみて、ここにたどりついた」って、何人かが同じ答えでした。

明日香 もちろん、英語で検索したんですよね。

香織 そう。なぜなんだろうね(笑)。

尚乃 うちの宿でもやっぱり美味しい水や豊かな自然、あと「厳かな環境」っていうスピリチュアル的な雰囲気を求める人が多いと感じますよ。みなさんそれぞれ信仰はお持ちだとおもうのですが、それとはまた違う、自然の力のようなものを感じることを大切にしているみたいです。

尚乃 たとえば、ドイツ人からいらしたお客様が、御嶽信仰のなかで行われている「滝行」をやってみたいというんですね。それで、御嶽信仰の信者さんたちと滝行を行っていた夫が、滝行を案内するようになりました。

いまでは希望する方に滝行を体験していただくようになりました。

香織 それは絶対、喜ばれそう。

尚乃 そうなの、その方は「貴重な体験ができた」と大変よろこんでくださいました。英語で「ウオーターフォールメディテーション(滝の瞑想)」って、言うんですね。私、その表現に感動してしまって。滝行って「修行」、「穢れを落とす」、「願掛けをする」というイメージだったけれど、確かに言われてみれば「瞑想」の一種でもありますよね。

明日香 うんうん、外の方が気づかせてくれる、新しい村の文化の見え方ってありますね。私は、王滝に来るインバウンドの旅行者は2つのパターンがあるなと感じているんです。

ひとつは完全に休息。オーバーツーリズムでの疲れを癒しているのか、室内にこもってのんびりしたり、次の旅への予約を進めたりにあてるパターン。

もう一つは、日本の自然に飛び込みに来た!という感じで、めいっぱい外に出て、ハイキングなどのアウトドアを満喫するパターンです。この場合の旅行者たちはアウトドアアクティビティの”激しさ”度合いが本当に高くて、よく驚かされています。

さゆり 海外の人たちの自然への入って行きかたはすごいですよね。この間もいっしょに、

真夏でも冷たい「白川」という川に飛び込みました(笑)。(取材時は2月)

── そ、それは、さすがにキツそうですよ!

さゆり それが、冬って外気が冷たいじゃないですか、だから川に入っても差がそんなにないので、意外とイケるんですよ(笑)。白川のほとりにある「森きちキャンプ場」にはテントサウナもあるけれど、むしろサウナなんていらないくらい、水からあがると体がぽかぽかしてくるんです。

華菜子 そうそう。川から出たあと、すごい身体が軽くなりましたよね。あれは、日本人にも試してほしいです。

明日香 自己責任すぎて体験プログラムにはできないけど(笑)、王滝の冬にそんなポテンシャルがあったとは。

尚乃 うちもね、ここに泊まりに来たヨーロッパからのあるお客さまが、「歩きたい」というからどこまで歩くのかと思ったら、なんと(隣町の)木曽福島まで。5時間くらいかかるじゃない?

香織 かかる、かかる。

尚乃 でも、彼らにとっては3時間くらいのお散歩は普通で、少し足を伸ばしたらそのくらいになるって。でも、いまは熊も心配だから、鈴を持っていってもらいました。

 でも、そうやって古道を歩いていても、一般的な田舎は、集落があったり、家があるじゃない? その点、ここは田舎っていうよりも、山奥(笑)。歩いていても周りには自然しか見えないこの環境が残されているのがまた、良いのかなあって思うんです。

それと、残されている、といえば、こんなこともあって。

インバウンドのお客さまを受け入れるにあたって、専門家からは「館内のトイレは絶対に全て洋式に変えなければ」って言われていたのですが、うちはそんな予算もないから全部は無理。そう思いながら実際に外国人をお迎えしたら、和式トイレがあった! って、喜ばれたんですよね。

さゆり むしろめずらしくてうれしかったんですね。

尚乃 そうなの。「どうやって使うの?」なんて、質問をうけたりして。「こんなに喜んでもらえるなら、もうしばらくは残しておこう」って、主人とも話しています。

「奥」だけど、出会いがあるのが村の魅力

明日香 さて、みなさんから旅行者の声をあれこれお聞きし、インバウンドの皆さんにとっては奥深いこの場所だからこその自然の美しさや、古き日本文化が残された素朴な暮らしも魅力だということがだんだん見えてきました。

そして、私たちはことさらに何かを変えなくていい、自然体で触れ合うことがこの村らしいおもてなしのあり方なのかもしれない、ということもわかってきた気がします。では、このウェブサイトのテーマである「移住者」に、村の魅力を伝えるなら、みなさんどんな点を推しますか?

香織 たとえば教育は、少人数だから寂しいとか言われがちだけれど、むしろ丁寧に見てもらえるのがいいと思うなあ。しかも、私の小中学校時代はかばんを背負って商店街を歩いて行っていたけど、いまはもうバスが迎えに来てくれるでしょう。「なんだよ、むしろラクでいいな」って、うらやましいくらいです。

さゆり 田植えもしょうゆづくりも、もちろんすんき漬けも、ここにいたら自分の手でできるのは面白いと思います。しかもひとりじゃなく、みんなで集まってできる楽しさがある。意外と「やろう!」って言った日に人が集まらなかったりすることもあるので(笑)、手伝ってくれる人は大歓迎だと思います!

華菜子 賃貸の家はなかなか見つかりづらいけど、まず一度来てみて考えるのもいいかもしれないですよね。いろいろ、マイナスの見方をプラスに転じてみるといいのかもしれない。

明日香 そうね、じつは1ヶ月ぐらい村外からも受け入れたりしているし。じつはうちは、子連れで移住して少人数の小学校にあまり、なじめないタイプだったんです。でも、それも経験してみないとわからないから、体験してみるのがいいですよね。

尚乃 ぜひ、まずは宿泊からでもやってきて、ぜひ王滝村の暮らしを感じてもらいたいですね。うちに泊まりにきてくれたら、すぐに明日香ちゃんたちを紹介します。

明日香 私も、くるみ沢旅館や観光案内所の魅力、伝えます! 今日はみなさんありがとうございました。