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ハードモードな話題

王滝村、ご当地Tシャツをめぐる冒険3〜「大家商店」の場合

村の観光案内所でも、ふとすれ違う人のコーディネートにも。
王滝村に滞在していると、よそでは見かけない、ちょっと個性的なTシャツを目にする機会が多いことに気づきます。

しかも、それは一種類ではなく、色もデザインも多種多様。
お土産として売られている一方で、村民の着用率もかなり高め。
王滝村にとってご当地Tはいわば、「ハードモードな王滝の暮らしのユニフォーム」のような存在にも、感じられます。

「王滝村ってちょっと、ご当地Tシャツ多くない?」
今回の企画は、そんな気づきからはじまった「冒険」。

いったいどんなご当地Tがあるのか、なぜそのTは生まれたのか。
源流をたどるべく、各地を訪ねてみました。

”元祖王滝Tシャツ”の火つけ役は、意外な場所から

毛筆で描かれた「御嶽山」の文字がひときわ目をひく、潔いデザイン。

「ご当地Tシャツをめぐる冒険」の最後にご紹介するのは、この地を知る村内外の人々から「御嶽らしい」と人気の高い、こちらのTシャツです。

地域の運動会に、部活動のトレーニングウェアなど、その活用のされかたはもはや「王滝村のユニフォーム」と言って良いほど。ロングセラー商品ともなっているこのTシャツ、一体どなたがデザインを・・・?と探ってみると、辿り着いたのは意外な場所でした。

王滝村内にある、唯一のガソリンスタンド「大家商店御嶽給油所」。

なんとここが、御嶽Tシャツが誕生した場所。筆文字の執筆からデザイン構想まですべて、夫とともに給油所を営む大家八代美さんが手がけました。

八代美さん、なぜTシャツをつくることになったのですか?

「最初につくったのは、2013年ごろだったかな。王滝村ではそのころから、『パワースポーツ』という会社が主催するトレイルランニングやMTBの大会が定期開催されているんです。で、その大会では毎回、参加賞としてTシャツが配られるんだけど、みんなが着ている様子がとってもいい感じだったの。

『Tシャツっていいな』って、思いながら、社長さんともすっかり意気投合していろんなことを話すようになったら、あるとき『奥さん、(Tシャツを)つくってみたらいいよ』って、思いがけず言ってもらえて。じゃあ、やってみようかなって、その言葉を本気にしてつくったのが最初なんです」

いつでも「王滝らしいデザイン」をさぐって

こうして、スポーツイベントをきっかけにオリジナルTシャツづくりに乗り出した八代美さん。「どんなデザインにする?」と構想するなかで最初に考えたのは、「御嶽山を御嶽山らしく表現したい」ということだったのだとか。

「それまでにも、御嶽山をモチーフにしたTシャツを見たことはあったんです。でも、どれも小さく可愛く描かれたりしていて、『ちょっとイメージが違う』って思っていたんですね。『御嶽山ってもっとおっかない感じだよな』って、自分が思う雰囲気を筆文字で書いてみて、一番イメージに合ったものを入れることにしました」

「この1枚を選ぶために、2〜300枚書いたのよ」と言いますが、荘厳な御嶽山のイメージにぴったりな文字を書く、八代美さんの多才ぶりには驚かされるばかり。このデザインが評判となり、旅人だけでなく村の人々にも愛される存在に。「かわいがってもらってありがたい」と、笑顔を見せます。

「運動会でみんなが色とりどりの御嶽Tシャツを着ている光景を見たときは、とってもうれしかった。『ああ、つくってよかったなあ』って思いました」

そうして八代美さんはこの後も、新たなTシャツを次々と生み出していきます。ただし、コンセプトとして共通しているのは、「御嶽山や王滝村らしさを表現したもの」であること。

「やっぱり、Tシャツをつくるからには王滝をアピールしたいし、王滝村は御嶽山あっての村。どうやって表現しようかと、毎回考えていますね」と話します。

 そうして生まれたデザインの一つがこちら。

レトロな雰囲気を感じるこのデザインは、御嶽教の信者たちが御嶽登山をする際に使う、「杖」に押された焼印がモチーフなのだとか。

「デザインのアイデアを探していたら、焼印がものすごいたくさん見つかったの。『すごいかっこいい、これいいじゃん』って、サイズを大きくして、なじむように少しだけ文字を修正して、できたのがこのバージョンですね」

そのほか、これまでにつくったTシャツは12〜3種類。さらに大家さん、手ぬぐいやポストカード制作も手がけています。なるほど、周りを見回すと、ガソリンスタンドの店内はさまざまな必需品とともに、大家さんが手がけた王滝グッズがずらり。ガソリンスタンドは村の玄関口であり、さまざまな旅人の願いや「困った」を受け止めるショップの役割も担っているようです。

グッズとは、村への愛そのもの。
尽きぬアイデアを、未来への希望にかえて

もともと八代美さんは、木曽郡上松町の出身。旅館のアルバイトとして最初にこの村を訪れ、結婚を機にこの村に暮らすことになったのだとか。

 「ここは小さい村ながら、長い歴史にダム建設、自然災害、財政のことも含めて、いろんなことが降り積もるようにして今がある村なのよね」

 「日本最古の村」ともいわれ、御嶽山とともに長い歴史を有する王滝村。遠い昔より、中山道からあちこちの峠を越えて参拝が絶えず、人も文化も交流が盛んな「特別な村」だったのだと、八代美さん。その奥深さや「特別な魅力」を伝えたいからこそ、手段としてのグッズづくりにも熱がこもるのです。

 「全国からこの地を訪れる御嶽教信者や登山客、観光客に支えられながら、村は歩んできました。最近は外国からのお客様も増えているから、日本語と英語両方の地図をつくっているんですよ」

 そう話す言葉の端々に、王滝村の未来への希望が、ぎゅっと詰まっていることを感じます。なるほど、大家商店給油所から生まれたグッズたちとは、八代美さんの村への愛そのものなのかもしれません。